東日本旅客鉄道株式会社(以下、JR東日本)様は、グループ経営ビジョンとして「ヒトを起点とした価値・サービスの創造」を掲げ、全事業を融合した「ヒト起点」のOne to Oneマーケティングに取り組んでいます。
その取り組みを本格化させるべく、2019年8月にTreasure Data CDPを導入。 その後、社内の様々な部門でCDPの活用が広まり、現在ではJRE POINT会員を軸に複数のサービスも含めた、より深い顧客理解に取り組んでいます。そして、その顧客理解をもとにヒト起点のデータマーケティングを実践しています。
今回は、50歳からの旅と暮らしを応援する会員組織「大人の休日倶楽部」におけるJR東日本様の取り組みをご紹介します。マーケティング本部 戦略・プラットフォーム部門 データマーケティングユニットの橋本久義マネージャー、宮野俊一様、マーケティング本部 くらしづくり・地方創生部門 商品・顧客ユニットの本室晴美マネージャーに、トレジャーデータ株式会社のプロフェッショナルサービス コンサルティングチーム シニアマネージャーでJR東日本様を担当している木下和也がお話を伺いました。
「大人の休日倶楽部」に関わるチームのミッション
トレジャーデータ木下(以下、TD木下):
はじめに、皆様のご経歴をご紹介ください。
JR東日本 橋本様(以下、橋本様):
私は1997年にJR東日本に入社しました。現場で駅長を務めたり、クレジットカード事業や駅ナカのコインロッカー事業など様々な分野を経験してきました。
現職には2022年6月の組織改編で就任しました。このデータマーケティングユニットは、JR東日本で従来から収益の大きな割合を占める「鉄道営業」、駅ビルの運営などをする「生活サービス」、決済などの領域を担当する「IT・Suica」という3つの事業領域を統合し、データマーケティングを推進する役割を担っています。 その中で、私のチームでは会員組織である「大人の休日倶楽部」を担当しています。
JR東日本 宮野様(以下、宮野様):
私は2018年に中途で入社しました。前職はシステムエンジニアでした。入社後はまず駅係員として現場を経験し、その後、新幹線きっぷのチケットレス化のプロジェクトに参加しました。
2020年4月から「大人の休日倶楽部」を所管するグループへ移り、「大人の休日倶楽部」へのTreasure Data CDPの導入を行いました。2022年6月の組織再編により現在はデータマーケティングユニットに所属し、引き続き「大人の休日倶楽部」を担当しています。
JR東日本 本室様(以下、本室様):
私は橋本と同期の1997年入社です。SuicaとPASMOの相互利用をスタートする際の事務局や、社内の研究開発セクションの1つであるフロンティアサービス研究所では顧客満足度に関する調査を行うなど、様々な仕事をしてきました。その後、観光開発や宣伝など販売促進を中心に携わってきました。
2022年6月の組織改編でマーケティング本部が発足したタイミングで、「大人の休日倶楽部」を担当することになりました。
私のユニットでは、鉄道のモビリティサービスと生活ソリューションサービスをいかに融合していくかというミッションを持っており、その切り口で「大人の休日倶楽部」の統括事務局を所管しています。橋本、宮野のチームとは異なり、「大人の休日倶楽部」の会員組織を運営する側の立ち位置ですね。
橋本様:
データマーケティングユニットでは、JR東日本グループ全体のお客さまのデータを扱います。
そこから「大人の休日倶楽部」の会員さまに関するデータに着目し、お客さまのLTV(顧客生涯価値)をいかに高めるかという視点で活動するのが、私たちの役割です。
当時の課題とTreasure Data CDP導入のきっかけ
TD木下: 「大人の休日倶楽部」において、どのようにデータ活用を進めてきたのでしょうか?
宮野様:
以前より、ウェブサイト運営やメールマガジン配信によって旅行商品の販売促進を図るなどのデジタルマーケティングを実践していました。
ただ、旅行商品以外のお客さまとの接点として、例えば、大人の休日倶楽部会員さま限定きっぷのご利用や会員さま限定の試写会などのイベント、さらに、趣味の会というカルチャースクール等もあるのですが、それぞれのチャネルごとにお客さまに向き合う中で、チャネルごとのデータ活用になりがちで、お客さまの姿がきちんと見えていないことが大きな課題でした。
その課題を解決するためにTreasure Data CDPを導入しました。
TD木下:
「大人の休日倶楽部」へTreasure Data CDPを導入した経緯を教えてください。
宮野様:
当時の担当者が、駅ビルを運営する「生活サービス」部門がTreasure Data CDPを導入したことを耳にしたのがきっかけです。
その部門の評判がとてもよかったので、「大人の休日倶楽部」を所管する鉄道営業の部門への導入が進んだ次第です。
橋本様:
実はTreasure Data CDPではないプロダクトも併せて検討していました。他のベンダーのデータプラットフォームを使っていた部署もありました。
しかし、「大人の休日倶楽部」の会員さまは必ずビューカードのご利用が前提であるため、JR東日本グループの共通ポイントであるJRE POINTが付与されます。
その点を踏まえると、同じくJRE POINTでつながることができる駅ビルなどの事業との連携を視野に入れていく必要があり、最終的にはTreasure Data CDPに決定しました。
また、先行して導入していた部門から「トレジャーデータは伴走型で手厚く支援をしてくれる」と聞いていたことも大きな魅力でしたね。
プロダクトそのものの差は技術的な知見がないと感じにくいのですが、プロフェッショナルサービスの存在は決め手となりました。
伴走型支援で実現したスムーズなCDP導入
TD木下: Treasure Data CDPの導入にあたり、苦労されたことはありましたか?
宮野様:
トレジャーデータのプロフェッショナルサービスの支援で、設定した期限までにトラブルもなく、スムーズに導入できました。
Treasure Data CDPの導入と同じタイミングで、私たちは「大人の休日倶楽部」のウェブサイトをリニューアルしました。そのためプロジェクトに関わる会社も複数あり、単純にTreasure Data CDPを導入するよりは複雑なケースだったと思います。
それでも、木下さんをはじめとした担当の方には「ウェブのリニューアルであれば、ここに気をつけてください」といったCDPの範囲を超えたアドバイスをもらえて助かりましたね。
TD木下:
ありがとうございます。
私は「大人の休日倶楽部」へのCDP導入の途中から携わらせてもらいました。宮野さんが元々はシステムエンジニアだったこともあり、弊社のエンジニアともスムーズなコミュニケーションができていた点もうまくいった要因の一つだと思います。
また、お客さまから「こんなことができないか?」と常に相談をいただくことが、私たちにとってはとてもありがたいです。こうしていきたいという強い思いがあるので、スムーズに導入を進めることができました。
橋本様:
私たちがやりたいことをトレジャーデータに明確に伝えられていると伺えて、とてもうれしいですね。
私たちが要望を伝えられるのは、木下さんをはじめとするトレジャーデータの皆様が、JR東日本が何をしようとしているかを常に注目し、最新の情報をインプットし続けているからだと思います。
私たちの取り組みに関するプレスリリースを見て、打ち合わせの前に「あの取り組みってこういうことですか?」と質問くださることがあります。
そこから内部の事情も伝えることができるので、信頼関係が深まりますね。まさに期待していた通りの伴走型の支援だと感じています。
CDPにより、実際の購買につながるメルマガコンテンツを発見
TD木下:
Treasure Data CDPの導入後、実践された取り組みをご紹介ください。
橋本様:
2020年11月に導入してから1年間は、「大人の休日倶楽部」にはどのようなお客さまがいるのかを改めて理解するフェーズでした。
宮野が先ほど「それぞれのチャネルで持っているデータで、それぞれのチャネルでマーケティングを行っていた」とお伝えしましたが、それはつまり「勘と経験」に頼っていたということです。
業務を通じて、各部署や担当者がイメージしていた顧客像が本当に正しいかどうか、まずはそこから理解し直すことが必要だと考えたのです。
暗黙知であったものがTreasure Data CDPによって可視化されたことは、大きな意味があったと感じています。やはり、自分たちで考えていた顧客像と、データによってわかった顧客像では異なる部分もありました。
例えば、「大人の休日倶楽部」の会員には満50歳以上であるという要件があります。ただ、上限はないので「旅行するのは70代前半くらいまでかな」という感覚を私たちは持っていました。
しかし、実際にデータを見てみると70代半ば以降の会員さまも、かなりアクティブに旅行に出掛けていることがわかったのです。
本室様:
鉄道利用のトレースは、これまではご利用人数しか把握できていませんでした。しかし、Treasure Data CDPによって、男女差やエリアによってかなり異なる特色があることが可視化できるようになってきました。
この顧客理解によって、鉄道営業の現場との連携も進み、駅ビルなどの生活サービス事業と連携した取り組みにも今後役立つであろうと期待しています。
TD木下:
Treasure Data CDPを活用して行った具体的な施策をご紹介いただけますか?
橋本様:
私たちの主力のサービスに「大人の休日倶楽部パス」という鉄道が有効期間内に乗り放題となるきっぷがあります。この「大人の休日倶楽部パス」は年に数回発売するのですが、そのメルマガに関する取り組みをお話します。
一般的なECサイトであれば、メルマガの開封率や、クリックからのコンバージョン率を向上させようとするはずです。ところが、「大人の休日倶楽部パス」はウェブで購入される比率があまり高くなく、これではお客さまの行動に正しく寄り添っているとは言えませんでした。
現在では、お客さまの購買行動のデータも収集しています。送信したメルマガがいつ開封されて、それから何日後にどの駅でパスの購入に至ったかなど、購買行動が正確に把握できるようになりました。
以前は駅での購買を可視化することができなかったので、開封率などにフォーカスするしかありませんでした。
今回分析を進めてみると「開封率が高くても購買につながっていない」「あまりクリックされていないが、よく購入された」といった、従来では把握できなかったケースが明らかになりました。
このことにより、メルマガのコンテンツを開封率やクリック率だけでなく、「実際に購買に結びついた事例」をもとに改善を続けることができていますね。今後もこの取り組みは継続していく予定です。
TD木下:
以前はメルマガ施策を実践しても、駅での購買が確認できなかったわけですから、非常に大きな変化ですね。
データ分析ではじめてわかった、より売上の大きなサービスとは
TD木下:
その他にもご紹介いただける施策があればお聞かせください。
宮野様:
まだ、構想の段階なのですが、非常におもしろいことがわかってきたのでお話させてください。
フリーエリア内が乗り放題の「大人の休日倶楽部パス」は、年に数回の販売期間があり、フリーエリアの種類ごとに価格が固定であるため、エリアを問わずどの駅でもお客さまにおすすめしやすく、会社としても「大人の休日倶楽部パス」の販売に特に注力していました。
ところが、Treasure Data CDPによる分析で、その「大人の休日倶楽部パス」よりも「大人の休日倶楽部割引きっぷ」(以下「割引きっぷ」)の方が、利用する会員さまの人数も売上も大きいことが明らかになりました。
「割引きっぷ」は、会員の種別によって何回でもJR東日本とJR北海道のきっぷが30%引きまたは5%引きになるサービスです。これまではあまり注目していなかったのですが、この「割引きっぷ」をいかに訴求していくかを、今まさにトレジャーデータとともに検討しています。
TD木下:
「大人の休日倶楽部」と「割引きっぷ」をいかにお客さまへ訴求するかは、私たちとしても大きなミッションだと認識しています。
また、今後は会員さまの新規入会や、退会防止、退会されてしまったとしても、その他のサービスへの送客といった観点でも提案を広げてまいります。
本室様:
新規の入会促進は、マスメディア、ウェブ、リアルを中心に進めており、Treasure Data CDPの有効活用まではできていないのが実情です。
退会者の方にどうしたら再入会を促せるのか、生活ソリューション領域のサービスをより会員の方にメリットとしてご活用いただけるにはどのようなアプローチが望ましいのか、トレジャーデータとの分析を通じて更なる顧客理解とサービス向上につなげていき、効率的なプロモーションができればと期待しています。
CDPを活用してJR東日本グループ全体での相乗効果を目指す
TD木下:
最後に、今後の展望をお聞かせいただけますか?
橋本様:
Treasure Data CDPを活用し、「大人の休日倶楽部」以外のお客さまの行動も理解していきたいと思っています。
例えば、当初は「大人の休日倶楽部」の会員さまが旅行中に駅ビルでお食事をされたり、お土産を購入したりといった情報は把握できていませんでした。統合データマートが整備され、ビューカードやSuicaの電子マネーで決済していただいたり、現金でのお支払いでもJRE POINTを貯めていただければ、お客さまの行動が見えるようになってきたと実感しています。
本室様:
鉄道施策を打った際に「どれだけJR東日本グループ全体で会員の方がメリットを感じていただけるような相乗効果を上げることができるか」という観点が、今後は重要な指標になってくると考えています。
「大人の休日倶楽部パス」や「割引きっぷ」を使用して旅行した際に、例えば駅ビルで買い物をする方や駅ナカ、コンビニのご利用をどうされているのか、その際にどんな特典があったらご満足いただけるか、会員の方がどのようなサービスの潜在ニーズをお持ちなのかなどが大事になってくる。Treasure Data CDPへの期待度は非常に高いです。
橋本様:
これは逆もしかりです。新幹線のご利用はまだまだ増やす余地があると思います。生活サービスやIT・Suica領域からわかるデータにより、鉄道収入をアップさせる点でも、Treasure Data CDPを最大限に活用していきたいです。
宮野様:
2022年6月の組織再編で発足したデータマーケティングユニットは、鉄道、生活サービス、IT・Suicaの3事業の部門が合流しています。そして、そのデータマーケティングユニットがTreasure Data CDPで構築している統合データマートには、様々なサービスを横断して、お客さまに関するデータが収集されています。組織としてもシステムとしても環境が整ってきたので、ビジネスへの貢献の可能性も大きく広がりました。ただ、私たちだけで大きなミッションに取り組むには限界もあり、時には自分たちの取り組みを俯瞰して見なければならないこともあるでしょう。そのようなときに、伴走してくれるトレジャーデータの力が必要だと思っています。
橋本様:
これまで、トレジャーデータとは議題が設定された場でのコミュニケーションがメインでした。ただ、宮野もお伝えした通り、ミッションを追求するあまり、全体感がつかめなくなることもあると思うのです。そのようなときには、気軽に意見交換ができる場を設けていたければうれしいですね。
TD木下:
本日はありがとうございました。ぜひ、議題を設けず、率直にコミュニケーションができる場も増やしていければと思います。引き続きよろしくお願いいたします。