第一生命保険株式会社(以下、第一生命)様は、グループの中期経営計画においてCXデザイン戦略を重要な項目に掲げています。
Treasure Data CDPを活用してその実現に取り組んでいるのが、同社のコミュニケーションデザイン部です。2020年4月のTreasure Data CDP導入以後、オウンドメディア「ミラシル」を通じて、顧客との適切なコミュニケーションの実現に取り組み、現在では営業の現場でも成果がみえはじめています。
今回は、第一生命コミュニケーションデザイン部マネジャーの木村剛徳様、工藤健吾様、関敦子様、アシスタントマネジャーの堂本大輝様に、弊社プロフェッショナルサービス本部シニアマネージャーの木下和也、担当の関根 大輔がお話を伺いました。
コミュニケーションデザイン部が担う4つのミッション
トレジャーデータ木下(以下、TD木下):
はじめに、皆様の役割とご経歴を教えてください。
第一生命 木村様(以下、木村様):
私は2007年に入社し、第一生命情報システムに配属されました。そこで5年間は決算関連のシステム開発に携わりました。
その後は第一生命の広報部で広告宣伝を7年担当しまして、それから2年間大学院に通いました。
現在はコミュニケーションデザイン部に所属しており、第一生命のオウンドメディア「ミラシル」を運営しています。
主にキャンペーンやイベントの企画、コンテンツの制作などを担当しています。
第一生命 関様(以下、関様):
私は2018年に中途で入社し、現在はコミュニケーションデザイン部で、Treasure Data CDPやマーケティングオートメーションツールを用いて分析をし、そこから施策の企画と実行までを担当しています。
コミュニケーションデザイン部は、私と同じく中途で参画しているメンバーが社内でも多い部門です。
第一生命情報システム 工藤様(以下、工藤様):
私は第一生命情報システムのデザイン推進部に所属しております。私が入社したのは2007年で、十数年にわたって基幹システムの開発プロジェクトに携わってきました。
現在は第一生命のコミュニケーションデザイン部に常駐し、システムの企画検討や開発推進を担当しています。
第一生命 堂本様(以下、堂本様):
コミュニケーションデザイン部の堂本です。現在の役割はソリューションエンジニアです。
私は2015年に入社しまして、当初の5年はシステムを担当したり、事務の企画部門で働いたりしてきました。その後、2年間は企業の経営者に法人保険を販売する現場を経験しまして、2022年度より現職に就いています。
TD木下:
コミュニケーションデザイン部は、どのようなミッションを担っている組織なのでしょうか?
木村様:
コミュニケーションデザイン部は2020年に発足した、当社の中で新しい組織のひとつです。
従来までの生命保険業界は、お客さまと対面でコミュニケーションをとることが常識でした。しかし、デジタルに接点を持つことを当然として過ごしてきた、いわゆるミレニアム世代が成人している現在、その特性に合わせて商品やサービスを機動力高く提供できる態勢を整えることが当時の課題でした。コミュニケーションデザイン部は、そのような新しい世代を中心としたお客さまの行動特性や、ライフサイクルが変化するタイミングを適切に捉え、デジタルでタイムリーに様々なサービスや情報を提供できる手法の構築をミッションとしています。
より具体的にお伝えすると、コミュニケーションデザイン部では主に4つのミッションを担っています。まずはデジタルを通じたお客さまの理解とタッチポイントの拡大です。オウンドメディア「ミラシル」やウェブ広告などを通じてそれらの実現を目指しています。
次にその顧客理解を推進するために、主に「ミラシル」においてアジャイルで様々な施策を打っていくこと。
3つ目はOMOも含めたビジネスモデル変革への挑戦、そして最後にデータドリブンマーケティングを推進することですね。
堅牢なセキュリティを求められる保険会社がTreasure Data CDPを選んだ理由
TD木下: 第一生命様では、2020年4月にTreasure Data CDPを導入していただきました。それ以前の取り組みや、当時の課題についてお聞かせいただけますか?
木村様:
”お客さまの理解を深めていかなければいけない”という課題は以前から抱えていました。私は2016年頃に広告宣伝を担当していたのですが、当時は営業活動の支援という観点で、当社への好感や商品理解といった認知系の施策を中心としたコミュニケーションをしていました。
一方で、デジタル上でのお客さま接点の構築や拡大が課題でした。そうした背景もありスタートしたのが、資料請求をしてもらうデジタルでの広告です。当時はノウハウもなく、試行錯誤しながらPDCAを回していました。
関様:
また「お客さまの興味関心や行動に即したコミュニケーションを取らなければお客さまの支持を得られない」という課題も認識していました。Treasure Data CDPと直接関係はないのですが、そのような観点から2018年頃にスタートした取り組みがあります。
TD木下:
どのような取り組みだったのでしょうか?
関様:
PoCとして10名ほどの小さなコールセンターを立ち上げ、お客さまを理解するための様々なテスト施策を実行していったのです。このPoCはお客さま理解において、非常にいい結果を残しまして、現在では約40名の組織となっていますね。
このような取り組みを実施していく中で、お客さまの興味度合いによって、適切なコミュニケーションをとらなければいけないという思いはより強固になりました。私が直接推進したわけではありませんが、その課題解決を実現するためにTreasure Data CDPの導入への動きが始まったと聞いています。
TD木下:トレジャーデータを選定いただいた理由を伺ってもよろしいでしょうか?
関様:
私たちは金融機関ですので、セキュリティを厳しく確認する必要があります。その意味で、他の金融機関での導入実績があったことに説得力を感じており、特にプライベートコネクト機能*に魅力を感じたそうです。
*プライベートコネクト機能:VPN接続を実現するトレジャーデータの機能
TD木下:
Treasure Data CDPの導入にあたって苦労された点があればお聞かせください。
工藤様:
お客さま情報の取り扱いには苦労しました。金融機関がシステムを開発するためにはFISC(公益財団法人金融情報システムセンター)が定めるセキュリティ基準をクリアする必要があります。
その基準にそったシステム構成を作り、サービスを利用するため、社内のセキュリティ部門やコンプライアンス部門、そしてシステム開発を担当していただいたベンダーさんと共にひとつずつ課題をクリアしていきました。具体的には項目レベルでのデータの取捨選択や、暗号化、ハッシュ化を活用しました。
また、トレジャーデータさんが共有してくださった知見も非常にありがたかったです。セキュアで信頼性の高い環境でのデータ授受を可能とするプライベートコネクトの活用提案や、他社での事例を紹介していただいたことをよく覚えています。
「利益」よりも先に「顧客満足度」にフォーカスする
工藤様:
さらに、Treasure Data CDPを活用する面においても、トレジャーデータのプロフェッショナルサービスの支援はありがたかったです。
TD木下:
プロフェッショナルサービスの支援も含めTreasure Data CDPをどのように活用しているのか教えてください。
工藤様:
まず、マーケティングで活用するためのデータを集約し、そこからマーケティングオートメーションのマスターにおけるセグメント生成、顧客のスコアリング、マーケティングシナリオ対象のデータ抽出などに Treasure Data CDPを活用しています。
トレジャーデータのプロフェッショナルサービスの方々には、これらの機能を実現するためにTreasure Data CDPと他のシステム間でのデータの受け渡しの仕組みを作っていただきました。また、Treasure Data CDP内に格納されているデータのリレーションやデータマートの作成、ワークフロー設計やSQLでのロジック作成も対応いただき、私たちが知見を持たない領域にピンポイントで支援いただきました。
文字通りの「プロフェッショナルサービス」だという印象です。私たちのやりたいことを汲み取って先回りしてご提案もいただけますし、伴走していただけることがとても心強く感じています。
TD木下:
ありがとうございます。マーケティングでのTreasure Data CDPの活用について、より具体的にお聞かせいただけますか。
木村様:
私たちが実現したいのは、”お客さまの望む最適なタイミングで最適な商品・サービスを提供すること、そのための導線を設計する”ことです。そのためにはパーソナライゼーションやマーケティングオートメーションの仕組みを構築しなければなりません。その仕組みを支えてもらっているのがTreasure Data CDPです。
具体的なお話をすると、この世界観を実現するために運営しているのがオウンドメディア「ミラシル」です。「ミラシル」は誰でも閲覧できるウェブメディアですが、土台にTreasure Data CDPによるデータ基盤が動いています。お客さまを「個客」として一人ひとり理解できるような仕組みを構築しているのです。
お客さまとの直接の接点である「ミラシル」を通じて、私たちはナーチャリング施策・マーケティングオートメーション施策を実行しています。
例えば保険の必要性を感じているお客さまであれば、そのニーズに適した記事をお届けし、それによってさらに保険商品やサービスへの関心を高めてゆく。その関心を可視化するために、「ミラシル」にはスコアリングの機能を実装しています。
TD木下:保険会社として最終的には商品につながることを見据えながらも、まずはお客さまごとにコンテンツを提供し、関心を高めていくことを優先されているわけですね。
木村様:
はい。第一生命グループが2021年にスタートさせた中期経営計画において、最も重要視しているものの1つがCXデザイン戦略です。顧客体験の向上によりサービス価値を実感いただき、お客さまとの長期にわたるリレーションを構築していこうとする考え方ですね。
ここで最低限必要になってくるのは、お客さまが欲しいと思う最適なタイミングで最適な商品やサービスを提供できるかどうかということです。会社目線でのコミュニケーションをするのではなく、お客さまの満足度向上や体験価値向上が先にあり、結果として利益がついてくる、「サービスが先、利益は後」という考え方です。
「ミラシル」もこのCXの観点のもとに運営していますので、お客さまに寄り添った価値提供という文脈で熱中症対策の記事や二日酔いの対処法の記事など、保険以外の領域で気軽に楽しんでもらえるコンテンツもお届けしています。
営業の現場にもスコアリングが貢献
TD木下:
「ミラシル」によるスコアリングは、保険商品の営業でも参考にされているのでしょうか?
堂本様:
はい。現在は「Cold」「Warm」「Hot」と3つの段階にスコアリングするロジックを組んでいます。全国のオフィスを束ねる支社や、その支社を束ねて地域ごとのマーケティングを統括する営業部門でこのスコアリングを活用しているのですが、「Hotになるほど成約率が高まっている」という声が出てきていますね。
ですから、「ColdからWalmにスコアがあがったお客さまのリストを提供して欲しい」など、現場からもデータ活用に関して意識が高まっています。
TD木下: 以前と比較すると、やはり営業の現場でもデジタルに関する意識は変化されたのでしょうか?
堂本様:
大きく変化していますね。私も4年ほど前には、現場で営業職員と一緒に仕事をしていました。当時はリモートでお客さまに会う機会は少なく、紙のチラシを直接手渡しすることが大半でした。現在では LINEWorksやSMS等を使ってお客さまへ情報を届けるようになるなど、営業の手法もデジタル化に刷新されつつあります。
「ミラシル」のコンテンツやデータについても、営業の現場で活用され始めています。
関様:
もちろん私たちは現在の「ミラシル」におけるスコアリングが完璧なものだとは考えていません。スコアリングが思うように高まっていかないという課題については、施策が効果的でないのか、そもそもスコアリングのロジックが正しいのかを見直すことも含めて、評価するタイミングを迎えています。
木村様:
「Cold」から成約する事例も当然あります。その場合”成約した”ということは、たまたまなのか、”実際には「Hot」だったのではないか”など、データに基づき仮説検証をしながら、チューニングを行う必要があります。
TD関根: そのようなロジックを作成するために、Treasure Data CDPでの機械学習も活用できると思います。是非、一緒にさらなる活用の余地を進めていければ私たちとしても嬉しいです。
木村様:
ありがとうございます。「ミラシル」をより活用するために、そうした提案をいただき本当にありがたいです。
プロフェッショナルサービスの支援当初にダッシュボードの構築を提案いただきました。メディアを運用する私の立場としては”自分でSQLを構築しTreasure Data CDPからデータを抽出すること”ではなく、”Treasure Data CDPから見えてくる結果の数字を把握しSTPD運用をすること”です。
ダッシュボードの作成を提案いただいた際、私たちが求めているものや必要な情報をお伝えし議論を重ね構築いただきました。現在ではTreasure Data CDPにSQLをその都度投げる必要もなく、会員数やその性別・年代・属性、どの記事がどれくらい読まれているのかがすぐに把握できます。
はじめの要望からそのまま完成したわけではなく、現在の形になるまでに様々な要望をお伝えしたのですが、とても柔軟に、かつスピーディに対応していただき感謝しています。
「眠っているデータ」を掘り起こす
TD木下: 最後に今後のTreasure Data CDP活用の展望をお聞かせください。
堂本様:
まず、私たちコミュニケーションデザイン部としての展望をお話します。
現在は、”お客さまの行動や興味に即してコミュニケーションがとれる仕組みの構築”にようやくたどり着けた段階です。先ほども少しお話がありましたが、どのようなお客さまが成約しやすいのかなど、今後は機械学習の活用も検討していきたいと考えています。
さらに第一生命グループ全体の観点では、まだまだデータを活用する余地が非常に多く残されています。そもそも「CDP」という言葉が全社で浸透しておらず、私たちコミュニケーションデザイン部を中心に活用している状況です。Treasure Data CDPによるデータ基盤があることを、全社的に理解してもらう必要もあります。
現在Treasure Data CDPで活用しているデータは、主に個人保障の領域のお客さまとなっております。第一生命にはその他に団体向けの商品や、資産形成のサービスなど、個人保険以外の多くのお客さまとの接点がありつつも、そのデータはまだ活用できていません。
私たちの部署からTreasure Data CDPによる基盤の意義を他の部署にきちんと伝えることができれば、まだ見ぬ眠っているデータから価値を生み出すことができると考えております。より多くのデータから得た知見を使い、お客さまと最適な関係の構築を今後も目指していくべきだと考えています。
TD木下:
本日は貴重なお話をいただきありがとうございました。