カスタマーコンサルティングチームの吉川 直宏です。
“マーケッター以外の皆様に贈る”顧客体験開発 – 設計篇1:カスタマージャーニーマップ作成(1) –に続き、購買ファネルや顧客インサイトについてご説明いたします。
購買ファネル/時間軸
ここからは表頭、表側について説明していきます。まず表頭の購買ファネルですが、こちらは顧客体験のすべてを網羅することが重要と認識してください。以前、顧客体験は商品と顧客のすべての接点から生まれるものと定義しました(*末尾に再掲)。したがって、広告やメールなど狭義のコミュニケーションではなく、接客や外装箱、テレマーケティングなど講義のコミュニケーションも含めて記載できるようにしておきます。
また皆さん御存知の通り、近年はLTV(生涯顧客価値)の最大化がマーケティングの定石となっております。そのため、新規顧客の購買意思決定までに限定したカスタマージャーニーマップではなく、購買〜使用、再購買までと3つのフェイズに分け、その中で更にステップに細分化させ顧客体験を描いていただけるような構造にしております。では詳細のご説明に入っていきましょう。
1.購買前フェイズ
- 課題認識 現状態と理想状態、及びその間にあるギャップを解決すべき課題として認識。このギャップを商品購入及び使用により解消するモチベーションを発生させて探索活動につなげていきます。簡単に言うと、お腹が減っている自分(現状態)を満腹で満足している自分(理想状態)にするために、今日は何を食べようか?(商品)と考えることです。
- 解決策探索 現状態と理想状態のギャップを埋める解決策を探索する行動を行うのがこのステップです。インターネットでの検索行動などが代表的な探索活動で、この時点では商品のカテゴリー自体が探索されている段階となります.
- 解決根拠認識 解決策の目処をつけたものの、なぜ解決できるのか、本当に解決できるのか顧客はわかりません。ここでは解決できる根拠を明らかにし、確実に解決できる納得感を得ようとしています。具体的には解決する技術/科学的な裏づけ、実際に解決した事例=体験談などを参照することになります。
- 代替比較 次に複数の解決策(商品カテゴリー/商品ブランド)の比較が行われます。価格はもちろん、解決できる納得感や購買の容易さ、過去の使用経験など総合的な比較が行われます。
- 購買意思決定 比較が行われた中で、顧客にとって最も合理的と認識された製品/サービスの1つのブランドが決定され、いよいよ購買行動が行われます。
2.購買〜使用フェイズ
- 購買行動 購買行動は店舗来店やECサイト来訪での商品接触、料金支払いなどの一連の行動が行われ、それが購買時の体験となります。具体的には実際の店舗での陳列や接客、包装などのクオリティ、ECでの購入の場合はサイトでの購入の容易さ、支払い手段の選択の幅、配送までの日数や到着時の梱包状態などがこれにあたります。購買時の体験が悪くて二度と購入しないと思ったことは誰しもあることだと思います。狭義のコミュニケーションではなく対策は困難な領域ではありますが、カスタマージャーニーマップでは忘れずに記載し最適な顧客体験を実現しなければならないステップです。
- 使用実感 使用実感は梱包を開け、説明書を読み、製品を使用してみた初期感想などがそれにあたります。使用して課題が解決するのは当然ですが、そこに至るまでのプロセスも顧客体験として重要なポイントとなります。
- 価値評価 価値評価は購買の目的であった現状態と理想状態のギャップが解消し、理想状態を獲得できたか、また購買などのプロセスに課題がなかったかなどで評価されます。期待していた理想状態に達しない場合には、その商品は低評価となり再購買されない可能性が高くなります。
3.再購買フェイズ
- 代替品比較 再購買でも課題認識や解決策探索は行われますが、重要となるのは代替品比較になります。前回購入時の価値評価が低かった場合は別の解決策を探索しようとしますし、評価が高かった場合でも新製品などがあれば、そちらとの比較が行われるためです。
- 購買意思決定 顧客によりリピート購買の意思決定が行われました。これは良質な顧客体験の積み重ねた結果、広義のコミュニケーションの最適化が実現できた証です。この先もリピート購入繰り返していただくことができると、顧客が”この商品なら確実に満足できる”という認識が生まれ、購買プロセスの効率化=すなわち解決策探索や代替品比較の労力をかけずに同じ商品を選択する状態になっていきます。この状態を作ることが真のゴールになります。
顧客インサイト/顧客体験
一方の表側は「顧客行動・(属性)」「顧客ボリューム」「顧客インサイト」「顧客体験」の4つの項目で構成されます。このうち「顧客行動・(属性)」「顧客ボリューム」はTreasureDataCDPから抽出されますが(厳密に言うと購買前のアノニマスや一般消費財など顧客全量のデータがかない場合は一部類推)、「顧客インサイト」についてはデータから見える顧客の行動から推測、「顧客体験」はインサイト仮説をもとに設計する必要があります。こちらも詳細の定義をご説明します。
顧客行動・(属性)
ここでは顧客の行動や一部属性情報からジャーニー上のどこに位置しているのかを定義します。定義したセグメントを顧客のジャーニー上の遷移の有無でグループ分けをした場合、遷移ありグループにのみ共通して見られる特徴的な行動や属性を明らかにし、顧客データを顧客体験に変換していきます。ただし、この段階での顧客体験は一人ひとりの個別体験となっていますのでそのままコミュニケーションに活用できない点はご注意ください。
顧客ボリューム
上記のジャーニー上のセグメント条件で顧客を抽出した場合の顧客ボリュームを明らかにしておきます。これは施策設計においてどのセグメントを優先し施策を実施しなくてはならないかを決定していく時に使用します。
顧客インサイト
顧客インサイトでは「1.顧客行動・(属性)」から顧客がどの”購買フェイズ・ステップ”に位置し、どんな顧客体験があったのかを把握し、それを全体に共通するインサイトに昇華させていきます。たとえば、WEBサイト上で商品を詳しく説明しているページにアクセスした顧客は、購買前フェイズの「解決根拠認識」フェイズにいると推測され、その商品が確実に課題を解決してくれる根拠を理解したいというインサイトが得られることになります。
顧客体験
「顧客インサイト」仮説に対して購買ファネル上の遷移を生み出す”顧客体験”を具体的なストーリーとして描いていきます。こちらは今の行動ではなく「分析」で明らかになった”過去にこのファネルにいて次のファネルに遷移したグループにのみ特徴的に現れる行動”をベースに構築いただけます。
先程の例では「解決根拠認識」ステップにいると想定され顧客でその後に購買した顧客は説明ページ内の動画を視聴している顧客が多いなどがあれば、メカニズムの理解が難しいと推測されるため、動画などを用いたわかりやすい説明が不可欠であり、動画視聴以外も含めた”わかりやすい説明”を顧客体験に据え顧客の接触モチベーションの醸成から解決根拠の認識までをストーリーとして設計していきます。
まとめ
今回は“顧客体験最適化”に向けたプロセスの2つ目「設計」、その中でも設計の基礎となるカスタマージャーニーマップの作成について説明させていただきました。冒頭でお話したとおり、マーケッター以外の方にとっては「カスタマージャーニーマップ作成」はデータから見えた一人ひとりの顧客体験のエッセンスを抽出し共通の顧客体験に変換していかなければなりません。
もちろん、今日の説明だけではハードルが高いと思われた方もいらっしゃると思います。しかし顧客の気持ちを想像し理解していくことには日常の業務での顧客対応された経験や自分自身が顧客となった時にどういうカスタマージャーニーやインサイト、顧客体験を経て商品選択や継続購入を行ったかをイメージしていただけると案外簡単に作成出来たりします。
是非一度取り組んでみてください。次回も引き続きカスタマージャーニーマップ作成をテーマに、具体的なイメージの強化、業種や商品関与によるカスタマージャーニーマップの違いや、不足しているデータの収集についての考察などをお伝えしていきます。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
トレジャーデータではTreasure Data CDPを活用した顧客分析、カスタマージャーニー開発、施策高度化など顧客体験最適化領域につきましてもレクチャー、アドバイスなどサポートさせていただくことが可能です。ご興味、お困りごとがありましたら担当までお問い合わせください。
(*)顧客体験
顧客体験は製品やサービスの認知から使用に至るまでのすべての接点で顧客に提供する体験と定義しています。つまり製品やサービスの使用や消費は言うまでもなく、それ以外も含めたすべての顧客とのつながりが顧客体験であり、顧客エンゲージメントを形成していきます。
製品やサービスのコモディティ化が進んだ現在、それ自体が競合企業に対して圧倒的に優位な顧客体験を提供できることは考えにくく、また多様な顧客ニーズにあわせて変化させられる領域も限定的となります。この状況では広告やCRMと言ったコミュニケーション、購入時の利便性や接客、商品使用時のアフターサービスの充実など製品やサービス以外の顧客体験を多様化する顧客にあわせてパーソナライズして設計・提供していくことが重要になると考えています。