カスタマーコンサルティングチームの由川 優です。
今回はニューヨーク・タイムズが展開するデジタル版ビジネスについて、”The New York Times Innovation Report”(2014年)と”Journalism That Stands Apart”(2017年)を中心に、データ活用施策で参考とすべきポイントを紹介します。
2006年から2011年は減収が続くも、2012年よりV字回復し現在も増収を継続中(2021年12月26日時点)
2006年以降、紙面を中心としたビジネスは減収が続き、2009年から2012年にかけては編集部門に希望退職者を募りコスト削減を進めました。紙面ビジネスの縮小が避けられない中、2011年にデジタル版の閲覧を有料化し、2020年には紙面ビジネスの収益を上回ることになります。2022年2月には計画より3年前倒しで有料購読者数1,000万人を達成し、2027年までに1,500万人を目指すことを公表していますが、V字回復のきっかけとなった要因として以下のものが挙げられると思います。
2012年から2013年にかけてホームページへの流入数が減少するも、ソーシャルメディアからの流入数が増えていることに着目
デジタル版ビジネスを拡大するため同社はアクセスログから現状を分析し、購読者とコンテンツの傾向として以下の事象を把握しています。
- 2012年から2013年にかけてホームページへの流入数は減少している。ただし、ソーシャルメディアからの流入数は増加している
- 多くの記事は掲載から10日程度でほとんど閲覧されなくなる。ただし、文化やライフスタイル(芸術、書籍、食べ物など)に関する記事は掲載開始からの期間に関係なく閲覧されている(文化やライフスタイルは息の長いコンテンツなる)
- 購読者にはお気に入りのコラムニストがいるが、同コラムニストの記事を集中的に閲覧しているわけでない。紙面では掲載場所が固定されており見つけやすかったが、デジタル版では見つけられていない可能性がある
長い期間で蓄積したコンテンツの質は高く、自社の強みであることは変わらない。デジタル版ビジネスにおける課題は、購読者が興味を持つコンテンツを見つけにくいことだと考察し、解決法を具体化しています。
インフルエンサーを意識したプロモーションと表示のパーソナライズにより購読者を集めて満足度を高める
アクセスログの分析結果よりソーシャルメディアのプロモーションを強化する必要があると判断しました。2014年時点では、ツイッターアカウントはニュースルーム、フェイスブックアカウントはビジネス部門が管轄し、別々にプロモーションを展開していたため、両部門が密に連携する社内ワークフローを整備しています。
また、影響力のあるツイッターアカウントにコンテンツを拡散してもらうため、自社コンテンツと多くのフォロワーを持つアカウントの親和性を分析しました。その後、リツイートしてもらうべきアカウントを絞り込み、戦略的なプロモーションを展開し、狙い通りに約1,600万のフォロワーを持つアカウントからのリツイートを実現しています。上記流入元の強化だけでなく、購読者の興味を持つコンテンツを見つけやすくするため、デジタル版の閲覧機能では以下を追加しています。
- 息の長いコンテンツのパッケージ化
- コラムニストの過去アーカイブ記事をまとめたシリーズ化
- トピックのフォロー機能・関連コンテンツの通知
- 見逃しているコンテンツのハイライト(未読であることを明示)
写真や動画、グラフィック、アニメーションなどを含めビジュアル化を進めるため、部門を超えたコラボレーションを促進する
アクセスログの分析結果に基づく考察として、購読者があらゆるコンテンツに触れている中で、ニューヨーク・タイムズはお金を払う価値のあるコンテンツだと認識してもらうためには、デジタル版だからこその伝え方を強化すること、購読者と双方向でコミュニケーションできる利点(=購読者がコンテンツを評価・レビューすること)を活かすことが重要であるとしています。
購読者がより快適にコンテンツと接するためには、写真や動画、グラフィックの編集者が記者やコラムニストと同等の役割を担うことが望ましいと考え、記者やコラムニストが限られた働き方ではなく、部門を超えたコラボレーションを促進する組織へ改編しています。
購読者層を明確に把握することで掲載広告の訴求効果を差別化する
上記の実践により購読者を増やしたニューヨーク・タイムズは広告ビジネスにおいても価値を向上しています。ある広告代理店の経営者は「ニューヨークタイムズの読者層は頻繁に旅行に出かけ、立派な家に住み、リベラル思想で、アートを収集するなど芸術的関心が高く、読書好きで、お気に入りの著者がいるといった特性を持つ。
これは非常に限られた層である」とコメントしており、上記顧客に接触したい広告主にとっては非常に貴重、かつ有益な広告出稿先になっています。文化やライフスタイルの記事が繰り返し閲覧されている実態を把握し、購読者の特性を明確にすることで広告ビジネスにおいても他社との差別化を図っています。
現状分析により購読者を理解し、自社の強みを最大化する取り組みを推進する
紙面ビジネスの縮小をデジタル版への切り替えによりV字回復させたニューヨーク・タイムズですが、データ活用施策において大きく2つのポイントがあったと考えます。
- アクセスログを分析して購読者を理解すること
- ソーシャルメディアからの流入が増えている。文化やライフスタイルのコンテンツは息が長い。紙面に比べてコラムニストによる閲覧の偏りは見られない(人気のあるコラムニストの記事を見つけられていない)
- 自社の強みを最大化すること
- 質の高いコンテンツが強みであることはデジタル版でも変わらない。伝え方(ビジュアル)を強化し、デジタルチャネルの特性を活かせば購読者の満足度を向上できる
上記は各企業でデータ活用施策を考える際、必ず検討すべき事項だと考えます。検討の前提として分析対象となるデータが集まっていること、分析可能な状態に整形されていることが求められますので、是非とも弊社ソリューションをご活用ください。
出典
The New York Times Company Reports 2021 Fourth-Quarter and Full-Year Results :
https://nytco-assets.nytimes.com/2022/02/NYT-Press-Release-12.26.2021-PpCb082.pdf
The Times hits its goal of 10 million subscriptions with the addition of The Athletic. :
https://www.nytimes.com/2022/02/02/business/media/nyt-earnings-q4-2021.html
Journalism That Stands Apart :
https://www.nytimes.com/projects/2020-report/index.html
The New York Times Innovation Report (Sean Smith) :
https://www.slideshare.net/SeanSmith12/224608514-thefullnewyorktimesinnovationreport
New York Times Innovation Report – 日本語要約 (SocialCompany, Inc.) :
https://www.slideshare.net/socialcompany/new-york-times-innovation-report-37304829
【VR FORUM2020】Keynote.2 アメリカの最新メディア事情 ~ 日本のメディアビジネス再編の糸口を探る ~ :
https://www.videor.co.jp/digestplus/media/2021/02/44947.html