カスタマーコンサルティングチームの組織を少し改変し、4月から新たにプロデュースチームが加わりました。プロデューサー矢戸 政法です。こんにちは。トレジャーデータにプロデューサーという役職があるのかは不明なのですが、勝手に名乗ってます(笑
さて前回は、「デジタル導入の心理的ハードルを下げる処方箋」として社内でどのようにデジタルツールの導入やDXを進めていくかについて思うところを書かせていただきましたが、今回は「どのような仲間を募るのか?」について書いてみたいと思います。DX推進のように社内のイノベーションを起こすプロジェクトにはチーム体制が不可欠であり、チームのデザインはプロジェクトの成否に関わります。DXを推進する上で個々に求められる素養についてはコンサルティングチーム/シニアマネージャー黒柳が「デジタル・データ活用人材に求められる素養」で書いているのでご参照ください。今回、私の方では主にマインドセットについてお話したいと思います。
マインドセットとは?
そもそもの「マインドセット」の定義を見てみましょう。
マインドセットとは、考え方の基本的な枠組みのこと。組織に対してだけでなく、個人に対しても用いられる。 組織においては、マインドセットは企業の意思決定のうえで重要な役割を担う。それは現在の事業内容や経営理念、過去の経験等から構成され、今後の達成目標や対象とする相手、利用できる手段等を定める際の指針となる。 また個人においては、マインドセットは職務に必要な知識や技能を明確に意味づけるのに役立つ。同じ知識や技能を学ぶにしても、その意味や目的を意識するのとしないのとでは、結果に大きな違いが出ることがある。
引用:コトバンク
要は「志」のようなものですが、マインドセットは心理学的に「固定思考」と「成長思考」があるも言われております。固定思考は「知能は変化しない」という考え方で、自分はどのように評価されるかを気にすることが多いようです。一方、成長思考は「知能は努力によって変化する」というマインドセットで、周りからの評価よりも「学ぶこと」を気にすることが多いようです。企業に変化をもたらすDXやデジタル推進にどちらの思考が必要かは言わずもがなでしょう。
渦の中心になる
京セラの創業者、稲盛和夫氏はその経営の中での経験値を「フィロソフィー」として著書にもしており、その中に仕事に取り組む姿勢についてこのように記しております。
仕事は自分一人ではできません。上司、部下をはじめ、周囲にいる人々と一緒に協力しあって行うのが仕事です。その場合には、必ず自分から積極的に仕事を求めて働きかけ、周囲にいる人々が自然に協力してくれるような状態にしていかなければなりません。これが「渦の中心で仕事をする」ということです。
会社にはあちらこちらで仕事の渦が巻いています。気がつくと他の人が中心にいて、自分はそのまわりを回るだけで、本当の仕事の喜びを味わうことができないときがあります。自分が渦の中心になり、積極的に周囲を巻き込んで仕事をしていかなければなりません。
引用:稲森和夫OFFICAL SITE
実は私京セラ関連の会社にいたことがありまして、その時に稲盛さんのフィロソフィーを学んできました。アメーバ経営でも知られる稲盛さんですが、小さい単位の組織だとしても中心となって働くことでやがて大きな渦になり、その中心になるために心を高めることが大事と教えられました。まずは自分が渦の中心になり周囲を積極的に巻き込んでいく志が必要になります。
「志」も単なる「やる気」だけではなく、具体的な達成目標をたてることでプロジェクトは継続できるのではないかと考えます。また、目標を具体化していく過程で、達成するために必要なタスクが明確になり、タスクを遂行するために必要なスキルセットも明確になっていきます。しかし、単にスキルを持った人材を集めればプロジェクトが前に進むわけではなく、チームメンバーにも各々にプロジェクトを前に進めようというマインドセットがないとプロジェクトは頓挫してしまいます。
ではチームはどの様にデザインすべきかを考えてみたいのですが、その前にDXなど社内にイノベーションを起こす際、どのようなプロセスを経るのかを、ティム・ブラウン氏は著書の中から紹介します。ここではイノベーションは直線的に進むのではなく、反復的で非直線的なプロセスを進む性質を持つと考え、下記のように述べています。
イノベーションは、三つの空間に分けて考えることができる。「着想」は、ソリューションを探り出すきっかけになる問題や機会。「発案」は、アイデアを創造、構築、検証するプロセス。そして、「実現」は、アイデアをプロジェクト・ルームから市場へと導く行程だ。チームがアイデアを改良したり、新たな方向性を模索したりするあいだに、プロジェクトがこの三つの空間を何度も行き来することもある。
引用:「デザイン思考が世界を変える」(2019年/早川書房)
CDPの活用において、例えば顧客分析を行う際にも仮説と分析の工程を繰り返すのは半ば当然のプロセスで、何度か繰り返すことで目指すべき形が見えてきます。また、一度実施した顧客分析も時間の経過とともに変化するため、仮説→分析→検証のプロセスは何度も繰り返す必要があります。DXもデジタルのツールを導入すれば完了するものではないため、メンバー選定の際にはこの反復のプロセスにおいて価値を提供し続けるスキルセット/マインドセットがあるのかも考慮に入れて行うのが良いと考えます。
さらに、一度導入したCDPの活用を更に広げようとする際にも着想〜発案〜実現のプロセスを反復することになるでしょうし、拡大のフェーズにおいては新たな「制約事項」が加わることも考えられます。もちろん、どんなプロジェクトにも制約条件もつきものなのですが、その制約を受け入れ(ときには楽しみ)反復しながらプロジェクトを前に進めることが出来るマインドセットをもっている人材がチームには求められます。
仲間を集める
DX推進はある意味で社内にイノベーションを起こすことであり、イノベーションは前述の着想〜発案〜実現のプロセスの反復によってもたらされ、この考え方はデザイン思考に通じます。デザイン思考の提唱者の一人でもある前出のティム・ブラウン氏は著書の中で「社内で才能のある人材を見つける方法」としてこう述べています。
デザイン思考家はたいてい不足気味だ。しかし、あらゆる組織の中に存在している。大事なのは、そういった人々を見つけ、育て、もっとも得意な作業をさせることだ。顧客の観察や顧客との会話に時間を費やしている従業員は誰か?メモを書くよりもプロトタイプを製作する方が得意なのは?内装の凝った個室にこもって黙々と仕事をするよりも、チーム作業の方が力を発揮できそうなのは?世界を別の角度で見るきっかけになる、奇妙な経歴(あるいは奇妙なタトゥ)を持っているのは?このような人々は、原材料でもありエネルギー源でもある。そして銀行の預金でもある。
さらに、こういった人々はのけ者にされるのに慣れているので、面白そうなプロジェクトに早い段階から参加できるとなれば、喜んで飛び付くだろう。それがデザイナーなら、快適なデザイン・スタジオから引っ張り出し、異分野連携チームに参加させよう。経理法務、人事の人間なら、画材を与えよう。
先程のマインドセットでも触れましたが、成長型のマインドセットを持っている人は評価よりも学ぶことを重視する傾向にあり、社内でも「浮いている」人かもしれません。ブラウン氏が言うようにそのような人は新しいプロジェクトに「喜んで飛びつく」かもしれません。
CDPプロジェクトを推進させるマインドセット
CDPを使いこなせている企業はまだ多数とは言えないのが現状だと思っており、私も日々お客様のCDP導入の支援を続けております。社内でも個人情報の取り扱いや、社内のセキュリティポリシー、予算や人材など制約が多いプロジェクトも少なくありません。
しかし、プロジェクトが進んでいるチームはどこか「楽しんでいる」感があります。基礎分析の結果が想定通りで目新しい発見がなかったとしても、「これまでの活動は間違ってなかった!次に何を出来るか考えよう!!」と前向に捉える傾向にあるように感じます。現状を観察し、制約を受け入れ、行ったり来たりしながら(反復しながら)前に進めることに抵抗を感じないマインドを持った人材がCDPプロジェクトを推進する上でヒーローになっていくのではないでしょうか。