カスタマーコンサルティングチームの由川 優です。
前回に引き続き、海外の先進的なDX推進事例をご紹介いたします。前回は、平安グループが実践する保険販売機会を創出するデータ活用戦略を紹介しました。
今回はオートローンを中心とした自動車の買替需要を創出するデータ活用戦略をご紹介します。 今回紹介するRBCグループは、カナダロイヤル銀行(ロイヤル・バンク・オブ・カナダ)とその関連会社で構成されており、カナダロイヤル銀行は時価総額においてカナダ最大の銀行で、総資産・収益力においてもグローバルな大手金融グループの一つです。
金融サービスの利用機会導出を目的に銀行の枠組みを超えたサービスを提供する
Royal Bank of Canadaは銀行ですが、ホームページには”BEYOND BANKING”というタブがあり、金融サービスに直接関連のないモバイルアプリを提供しています。カナダへの移住者向けアプリやマイカー保有者向けアプリ、不動産情報検索アプリや引越サポートアプリなどサービスは多岐に渡り、銀行口座を持たない顧客でも利用できます。
提供されているアプリに共通するのは、アプリを利用していくと口座開設やオートローン、住宅ローンなど金融サービスの利用機会に繋がることです。 マイカー保有者向けのアプリである”Drive”は、定期メンテナンスの通知や予約、タイヤ交換時期の通知や買替商品の提案、保有する車の部品がメーカーのリコール対象となればお知らせが届くなど、マイカー保有者へ利便性の高い機能を提供していますが、最大の特徴は、マイカーの中古車買取価格を常時照会できることです。
走行距離や初年度登録からの経過年数、修理履歴などから中古車買取価格を算出・表示していると推察されますが、顧客がアプリを使って買取価格詳細を確認したタイミング(=買い替えの意向があると思われるタイミング)で銀行からオートローンを提案することを可能としています。
少し話は逸れますが、米国”Cox Automotive”のレポートでは、自動車買替時に顧客が時間を割くのは、一位が車種検索、二位がマイカーの買取価格確認だとしており、買い替えの意向を持った顧客の多くは本アプリで買取価格を確認するといえるでしょう。買い替え意向がある顧客は車種検索も行いますが、買い替えの意向が高まっていない場合にも趣味嗜好の一環として日常的に利用する可能性があるため、買い替え意向の有無を把握するためには、買取価格の照会が適当とも考えられます。
カーディーラーが販促活動に専念するためのサービスも提供
Royal Bank of Canadaは、カーディーラーの収益向上を目的としたサービスも提供しています。 カーディーラーが書類・電話・ファックスで実施していた自動車仕入れ資金の融資申し込みや借入金の返済、適用金利の履歴閲覧などを全てオンラインで手続き可能としました。
書類の廃止によりカーディーラーがより販促活動に専念することをサポートすると共に、Royal Bank of Canadaの事務効率向上も実現しています。 本サービスによりカーディーラーの事務負荷が下がることで自動車販売に専念して自動車が売れる。多くの自動車が売れれば自行のオートローン利用機会が増える。という構図です。
多様化する自動車購入プロセスを補足し、いかに顧客ニーズを明確化するか
自動車購入を検討し始めた消費者が最初に閲覧するウェブサイトは、第三者のウェブサイト・検索サイトが64%、自動車メーカー、もしくはカーディーラーのサイトが26%という調査結果があります。 第三者のウェブサイトは車種比較や試乗レポート、新車情報の速報などを掲載するサイトなど幅広く含み、顧客は多様なサイトで情報収集していることが想像できます。
第三者のウェブサイトは自動車メーカーやディーラーとは運営主体が異なるため、同サイトの閲覧状況から具体的な顧客ニーズを把握することは難しいですが、RBCグループはその難しさを解消した事例といえるでしょう。 自社のサービスに拘らずニーズを把握できるアプリを展開していく、またニーズを把握するプレイヤーをサポートするというアプローチは、金融業界に限らず参考となるのではないでしょうか。
自社サイトの閲覧履歴やオフラインでの顧客接点からデータを収集することでも顧客のニーズを把握できる
車種比較や試乗レポートを掲載する第三者のウェブサイトは、自動車購入を検討し始めたタイミングでは多く利用されている反面、自動車購入の直前では利用が減るという調査結果もあります。(購入直前に閲覧するサイトは、第三者のウェブサイト・検索サイトが52%、自動車メーカー、もしくはカーディーラーのサイトが48%) また同調査では、自動車購入の検討開始から購入完了までは100日間程度の期間があるとしており、検討期間中には自動車メーカーやディーラーのウェブサイトでも情報を収集していることが考えられます。
自社サイトでデータを収集・分析することでも顧客ニーズの補足は可能であり、マーケティング施策実行のインプットになると考えられます。まずは顧客情報の収集が可能なチャネルやオフラインでの接点からデータを収集し、利活用可能な状態へデータを加工(例:顧客を一意に特定した状態へ加工する)することが第一歩となります。
ご検討の際は是非とも弊社メンバーへお声掛けください。
出典
RBC : Ventures Beyond Banking
RBC : DRIVE Looks After Your Car, So You Can Focus on What Matters
COX AUTOMOTIVE : Shopper Insights 2019 Car Buyer Journey Study