カスタマーコンサルティングチームの佐々木 亜衣です。
Treasure Data CDPをご利用いただいている皆様の中には、「顧客データをどのようにCX(カスタマー・エクスペリエンス)向上に活かすか」に悩みがある方もいるかもしれません。せっかく収集した顧客データをどのように活用するかという点や、またどのようなデータを収集するかという点については、最新の事例がそれほど多く世の中に出ておらず、学術的な研究がまだまだ進んでいない領域です。ただ、一部「ビッグデータの分析によるCX向上」をテーマに研究がされていますので、前回に引き続き先端研究をご紹介します。
CX向上のための顧客データ活用
CX向上のための顧客データ活用(2)
CX向上のための顧客データ活用(3)
Customer experience management in the age of big data analytics: A strategic framework
前回までの記事で、Hanken School of Economics, Department of Marketing, CERSのMaria Holmlund氏らによるグループの、CXマネジメントと顧客データ分析の関係性 / カスタマー・エクスペリエンスとCXデータの研究をご紹介しました。今回は、CX改善について見ていきたいと思います。企業がCXの改善を検討する際にまず取り組むべき事項として、「顧客との接点(タッチポイント)のモニタリング、優先順位付け、活用、CXジャーニーデザイン」を挙げています。
前者の3つのCX改善活動(モニタリング、優先順位付け、活用)が、より運用的で短期志向であり、通常は単一のタッチポイントを扱うのに対し、後者のジャーニーデザインはより戦略的で長期志向であり、カスタマージャーニーにおけるすべての潜在的タッチポイントを扱うものです。その結果、より急進的なイノベーションはタッチポイント・ジャーニーの設計能力から、より漸進的なイノベーションはモニタリング、優先順位付け、適応能力から生まれる可能性が高いと言えます。各CX改善活動について見ていきましょう。
タッチポイント・ジャーニーのモニタリング
タッチポイント固有のパフォーマンス数値を包括的に把握することにより、顧客の状態を理解することができます。タッチポイントを横断的に担当するモニタリング専門チームを設置している企業もあります。例えばIoTを使用し、物理的な領域(例:フィールド修理サービス)のタッチポイントを監視することができます。その事例の一つが、建築機械などの製造会社であるCaterpillarの世界最大級のディーラーであるFinningです。Finnningは予測的・規範的BDAをモニタリングすることを通じて、従来型の修理サービスチームから、顧客の機械のサポートを提供するための専門チーム「Finsight」の構築にシフトしています。
FinningはIoTを使用してマシンの位置を追跡し(例えば、このチームは24時間以内に盗まれたマシンの位置を特定することに成功したこともあります)、早期故障の防止、耐用年数の延長、ダウンタイムの最小化、オペレーターの効率化、修理費用の削減、解決策の推奨などのサービスを顧客に提供することに成功しています。
タッチポイント・ジャーニーの優先順位付け
CX分析を利用して、金銭的、技術的、人的資源を(再)配分し、毎回ジャーニー全体を再設計する労力と費用をかけずに、短期的に単一のタッチポイントの開発と修正を指示することも可能です。例えば、ある無線通信事業者は、サービスへのサインアップ、機器の使用、技術的問題の解決、課金問題の解決、プラン変更、機器のアップグレードなどのタッチポイントの中から、顧客に最も関係の深いタッチポイントを特定することに取り組んでいます。
そして、解約/乗り換え行動と予測型BDA(例:多変量回帰分析)を用いて、CX(ひいてはロイヤルティの意図)の満足度に影響する事項を定量化することができるのです。このようなCXの洞察により、優先すべき新たなタッチポイントを明らかにすることもできます(例:デジタル領域における課金タッチポイントは、無線プロバイダにとって強力な改善レバーとなるかもしれない)。
タッチポイント・ジャーニーの活用
CX分析に基づき、タッチポイントの開発/修正を行うことも可能です。例えば、ストリーミングプロバイダーのSpotifyは、2019年のキャンペーンにおいて顧客ごとにパーソナライズされた体験を提供しました。(#2019Wrapped; Spotify)Spotifyは、記述的(頻度やクラスター分析など)および予測的(コンテンツフィルタリングなど)BDAを活用し、高度にパーソナライズされたタッチポイントを設計しました。
その1つとして、2019年のリスニング習慣に関する情報(聴いた曲数、トップアーティストとジャンル、リスニングに費やした時間、他の顧客との習慣の比較など)を記載したパーソナライズドEメールを各顧客に送信しました。さらに、Spotifyはカスタムプレイリスト(例:Top Songs of 2019やTaste-breakers、つまりユーザーが聴いたことはないが、リスニング習慣からSpotifyが好きそうだと思う曲)を生成し、各顧客のジャーニーにおいてパーソナライズしたタッチポイントを開発することができたのです。
タッチポイント・ジャーニー・デザイン
企業は、ビジネスプランニングとモデリングの手段として、また製品開発、販売、およびコミュニケーション機能全体に明確な要件を広めるために、CX分析を活用して潜在的なジャーニーの提供を設計することができます。例えば、農業機械メーカーのJohn Deereは、2012年の時点でBDAを活用しようと考え、同社の機械にセンサーを装備し、顧客がリアルタイムかつ無料で自分の機械データにアクセスし、他の機械とのベンチマークや過去のデータ(天候など)と組み合わせて分析できるソフトウェアを導入しています。これにより、John Deereは顧客のジャーニー全体を変える新しいタッチポイントを導入したのです。
その後、同社はすべてのソフトウェアを myJohnDeere.com プラットフォームの下に置き、サプライヤー、小売業者、ソフトウェア開発者に開放しました。そうすることで、John Deereは製造業のビジネスモデルからプラットフォーム中心のビジネスモデルへと移行し、その結果、農業業界に革新的なイノベーションをもたらしたと言えます。
まとめ
今回は、CX改善活動の事例をご紹介しました。収集した顧客データをどのように施策に活かせる形に加工するか、などのご相談については、弊社のカスタマーサクセスチームにぜひお声がけください。
出典
Customer experience management in the age of big data analytics: A strategic framework
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0148296320300345?via%3Dihub