定期販売モデルの通販・SaaS・金融/電気/携帯電話などのインフラなど、ほぼ全ての業種業態が「お客様に自社製品・サービスを長く使い続けてもらうこと」がビジネス拡大のための必須となっている昨今。サービス利用開始後の定着化施策やロイヤリティプログラムを設計しコミュニケーションを行なっていても解約してしまうユーザーは一定数存在し続けます。新規獲得施策を攻めの施策と定義したとき、解約しそうなユーザーを引き止める守りの施策が必要となることもあるはず。
今回はそんな解約抑制の守りの施策設計について、顧客体験を損なわずより長くお客様に使ってもらえるためのベストなタイミング・アプローチを検討したアナリティクスチーム・石井さんにお話を聞きました。
解約抑制をするためには、まず何から始めるべき?
事務局:
解約抑制をしよう、とした時に「まずは、どうして辞めたのか?」という解約理由を探る、という点が思いつくのですが、どういったアプローチを行うことが多いのでしょうか。
石井:
はい。もしも解約するお客様との接点を持つことができるなら、定性情報としてヒアリングする、というのはいい手です。一方で、自社で保有しているデータを元に施策を検討していくシーンも多々あるかと思います。そこで、今回は、蓄積した顧客データを活用し、顧客の特徴理解をすることで施策検討をするケースについてお話しできればと思います。
実際に私が行ったアプローチとしては、
- 取得データから利用者が解約するまでのカスタマージャーニーを描く
- どのタイミングで利用者に解約防止施策を打つのが効果的かを検討し、トリガー候補を決める
というものです。
事務局:
なるほど、データからユーザー心理を推測するのですね。
石井:
はい、今回はCDPに格納した、顧客の購買データを活用したケースでお話できればと思います。
取得データから利用者が解約するまでのカスタマージャーニーを描く
石井:
はじめにすることは「解約するお客様の属性(デモグラ情報・会員情報など)の傾向を掴む」ことです。そして、「解約にいたるまでのカスタマージャーニーを想定し、実際のデータで傾向を確認」していきます。
まず、属性の傾向を掴むという観点では、性別や年齢、入会時期や会員ランクといった会員情報を用いて特徴を確認していきます。特定の属性のユーザーが解約してしまっていないか、入会からどのくらいの期間が経過したタイミングでの解約者が多いのかなどを確認します。例えば、2年間使っていたが辞めるユーザーと登録してすぐ辞めるユーザーだと商品・サービスに対する不満が違うところにあり、異なる対策が必要と考えられます。
大切なことは解約するお客様をいくつかのグループに分けることです。解約ユーザーのうち、対処すべきグループを想定した後は、そのユーザーが解約までにどのような行動をとるのかを考えていきます。そのうえで、購買データなどの分析を行い、実際の特徴を確認していきます。分析を通して、解約ユーザーにどのような行動変化が起きたのか、注目すべき行動はどのようなものかを絞り込んでいきます。
分析の際には、事前にそのようなカスタマージャーニーが想定できていると、何のデータをみていけば良いかあたりをつけることができ、分析を効率的に進めていけるかと思います。
事務局:
サービス利用〜解約までのカスタマージャーニーを描くのですね。他にも、データから解約するユーザーの特徴を確認していく際にに加味すべき観点はありますか?
石井:
そうですね。サービス利用や、商品購入だけではなく、例えばポイントプログラムがあるのであれば、ポイントの獲得状況や利用状況、何に利用しているかなど複数種類の観点での行動を想定しておくとよいと思います。そうすると、購入しなくなった人、ポイントを使い切った人、特定の方法でのポイント利用をした人など様々な観点で、ユーザーを特徴づけしていくことができます。
候補として洗い出しをした行動について、実際のデータで傾向を確認していくことで、どの行動に着目するとよいか絞り込んでいくことができます。いろいろな角度からデータを見ていき、どの課題を解決したらよさそうか?の優先順位をつけます。その結果、ユーザーをどのような行動・状態を起点にグループ分けをするとよさそうか?を絞り込んでいきます。
どのタイミングで利用者に解約抑止施策を打つかを検討し、トリガーを決める
事務局:
データを見ていく際には、どのような見方をするとよいでしょうか?
石井:
解約ユーザーの動向を確認していく際には、時系列での変化を見ていくことも有効だと思います。例えば、解約した月を基準として、1ヶ月前、2ヶ月前・・・・など、遡って変化を確認していく方法があります。このとき、複数の行動を比較しながら見ていくことで、どの行動に特徴があるかが把握しやすくなります。
どのようなタイミングで、何の行動変化に特徴があるかを把握していきます。どのような行動をした人、どのような状態になった人をトリガーとし、施策を打っていくかを検討していきます。
事務局:
実際に解約抑止のトリガーとなる指標を設定していくまでに、様々な考察が必要なのですね!次は具体的にトリガーを設定していく上で気をつけるポイントについてお伺いできればと思います。
実際に解約抑止のトリガーを設定するときに気をつけるポイント
石井:
トリガー設定で重要なことは3点あります。
- どんなタイミングに施策を打つのかを想定しておくこと
- 施策の対象となるユーザーグループに名前をつけられるかどうか
- トリガーの対象者の母数を確認すること
どんなタイミングに施策を打つのかを想定しておく
石井:
ユーザーから解約の意向があった際に施策を打つ場合をイメージしてください。この場合、すでにユーザーの心は決まっていることを加味し、それを覆すには、強い即効性がある施策を打つ必要があります。解約直前に起きるような行動をとったユーザーに対して施策を打つ場合は、そのような即効性のある施策はどのようなものか?施策実行が可能か?ということを考えておく必要があります。
より多くの解約を止めたい場合は、過去の解約済みユーザーが一定期間のタイムスパンでどのような利用状況の変化を辿ったか、その中で特徴的だった変化をトリガーにし、施策を打つことが肝要です。
事務局:
なるほど、そこで活用できるのが、作成したサービス利用〜解約までのカスタマージャーニーですね。
石井:
はい、その通りです。例えば「解約直前には溜まっていたポイントを消費する行動が増えていた」ということがわかったとします。
この場合は、例えば
- 急激なポイント消費行動が起こりにくいサービス設計にする(普段使いを促すような利用用途など)
- 急激にポイント消費をしたユーザーに対しては「大量購入・ポイント消費ボーナス」付与し、利用継続しやすい状態を狙う
といった施策を実施することで、サービス離反者数を抑えられる可能性がある、と考えられます。
分析で出したユーザーのグループに名前をつけられるかどうか
石井:
1つ目の「どんなタイミングに施策を打つのかを想定しておく」に関連するのですが、グルーピングしたユーザー群に名前をつけられるかどうか?は解約防止施策の設計にも関わる重要なことだと思います。先ほどの例だと「急激なポイント使い切りユーザー」と考えられますし、他にも「半年以上利用がないユーザー」などといったものが考えられます。
こういったラベリングは、施策検討時に「何をする必要があるグループか」を考える補助になりますし、複数人で検討する際にもイメージを揃えやすいのではないかと思います。また、これらのグループのラベリングが混ざっている状態(さまざまな特徴を持つユーザーが混在している状態)だと、解約予備軍であるユーザーである可能性があるにも関わらず「なんとなく使っていそう」な人たちに見えてしまったり、効果的でない打ち手になりえるユーザーに誤って施策を実施したり、といった顧客体験を損なう打ち手を行う危険性もあります。
グループの特徴が曖昧だと、施策で伝える内容もぼやけてしまい、施策の効果が出ない(継続ユーザーが増えない)事態になる可能性もあるため、注意が必要です。
トリガーの対象者の母数の確認
事務局:
3つ目のポイント、トリガーの対象者の母数をどうやって決めていくか、教えてください。
石井:
トリガーを決定するにあたり、対象者のボリュームも重要な要素です。アプローチする既存顧客数がどれくらいいて、その人たちが継続すると出せるインパクトがどのくらい大きいか、また、それらの顧客をターゲットとした施策のコストはどの程度かなどを考える材料となります。具体的には、以下のような観点でボリュームや精度を比較検討して、最終決定していくことが考えられます。
- 母集団の人数(会員全体の人数)
- 母集団における解約者の人数(会員全体における解約者の人数)
- トリガー条件の合致者の母数
- トリガー条件合致者における解約者の人数
- 解約者の捕捉率 (④/②)
※ ③はアプローチする対象者の母数で、施策のコスト等にも関わる
※ ④は解約を防止できた際のインパクトに関わる
※ ⑤はトリガーの妥当性(うまく解約者を捕捉できているか)に関わる
例えば、一定期間利用しなくなったユーザーを対象とした施策を考えるとして、期間条件を「短期」「中期」「長期」に分けてみて、どれくらいの対象ボリュームになるか見るとよいと思います。
まとめ
既存のお客様に長く続けてもらうには、ユーザーごとに解約予備軍の兆候が出たタイミングで、「やっぱり継続したくなる」顧客体験となりうる適切な施策を打っていくことが大事だということがわかりました。石井さんありがとうございました。