カスタマーコンサルティングチームの佐々木 亜衣です。
Treasure Data CDPをご利用いただいている皆様の中には、「顧客データをどのようにCX向上に活かすか」に悩みがある方もいるかもしれません。せっかく収集した顧客データをどのように活用するかという点や、またどのようなデータを収集するかという点については、最新の事例がそれほど多く世の中に出ておらず、学術的な研究がまだまだ進んでいない領域です。ただ、一部「ビッグデータの分析によるCX向上」をテーマに研究がされていますので、前回に引き続き先端研究をご紹介します。
Customer experience management in the age of big data analytics
A strategic framework
前回の記事で、Hanken School of Economics, Department of Marketing, CERSのMaria Holmlund氏らによるグループの、CXマネジメントと顧客データ分析の関係性についての研究をご紹介しました。今回は、カスタマーエクスペリエンス(CX)とCXデータについて見ていきたいと思います。
カスタマーエクスペリエンス(CX)とCXデータ
デジタル、物理、ソーシャルの領域での顧客と企業の接点では、構造化されたものから非構造化されたものまで、さまざまなCXデータが生み出されます。構造化されたCXデータは、数字で表すことができますが(例えば、売上データ、地理的な位置座標、顧客満足度調査のスコアなど)、非構造化データは、一般的にテキスト、音声、画像、動画などの数値化が難しい形式です。
また、顧客と企業の接点での評価は、募集型データまたは非募集型データで行われます。募集型のCXデータは、フィードバックを顧客に求め、得られたデータです(例えば、アンケートへの回答、招待レビューの執筆、フィードバックワークショップへの参加など)。一方、非募集型のCXデータは、主に顧客が主体となって提供するものです。例えば、電子メール(デジタル領域)、SNSでのコメント(デジタルおよびソーシャル領域)、または店舗従業員への直接フィードバック(物理的領域)などが該当します。
本研究では、この2つの軸(募集型と非募集型、構造化型と非構造化型)を用いて、組織がカスタマージャーニーの各タッチポイントでどのタイプのCXデータを収集できるかを検討しています。表1は、さまざまなCXデータの種類とその特徴の概要を示しています。
表1:CXデータの類型と特徴
募集型×構造化データ
実務で収集されるCXデータの最も一般的な形態です。このようなCXデータは有用ですが、CXは複雑すぎて1つまたは数個の数値だけでは捉えられないことが多いため、CXマネジメントでの活用の可能性は低くなってきています(Lemon and Verhoef, 2016, McColl-Kennedy et al, 2019)。構造化された顧客フィードバックの収集は、開発、管理が容易で、固定費は低いですが、特に市場調査機関を利用してデータを収集する場合は、変動費が比較的高いと言えます。
募集型×構造化データ
企業の多くは、顧客フィードバック調査に自由形式の質問(例:NPSの回答者にスコアの説明を求めるテキストボックス)を含めたり、詳細なインタビューやフォーカスグループを実施したりすることで、ますます多くの非構造化データを求めるようになっています。このようなCXデータは、募集型スコアよりも多面的(=文章構成、話す様子などに着目して分析できる)であるため、CXマネジメントでの活用可能性が高い傾向にあります。とはいえ、このようなCXデータは、より多くの顧客の参加を必要とし、分析も複雑になります。従来、テキストデータを直接扱うか、音声や動画データをテキストに書き起こして、そのテキストを分析する(例えば、質的調査法を採用する)作業をおこなってきました。
このようなアプローチは、規模が大きくなると(例えば、何百万ものカスタマーレビューを扱う場合など)煩雑になります。より先進的なテキストマイニング手法を用いれば、このプロセスを自動化することができますが、高い精度を求めると通常は高いコストがかかります。
非募集型×構造化データ
企業は、顧客が自発的に提供する構造化されたCXデータを収集することがあります(例:顧客が独立したレビューサイト等に提供した評価など)。企業は、ウェブスクレイピングツールを使用してこのタイプのデータを収集することができますが、このようなアプローチは固定費が高くなる傾向にあります。
また、この種のCXデータは、他のソースからも得られます。例えば、店舗に出入りする人の数や、混雑状況など、顧客の反応に影響を与えることが想定される数値や、ウェブサイトのクッキー、Google Analytics、Internet of Thingsなども、目立たない方法で収集可能なCXデータのソースです。
非募集型×非構造化データ
企業は、顧客のメールやツイート、オンラインレビュー(=テキスト)、コンタクトセンターへの電話(=会話)、Instagramにアップロードする写真(=画像)やYouTubeにアップロードするVlog(=動画)などからCXデータを収集することができます。
また、お客さま以外のソースからも、このようなCXデータを提供することができます。例えば、多くの公共スペースではビデオ監視が行われており、膨大な量のビデオデータが生成されています(例:交通、公共交通機関、セキュリティなど)。しかし、このようなCXデータの取得には、取得、整理、統合するための比較的高い固定費がかかり、プライバシーや法的な問題も発生するため、あまり現実的ではありません。
まとめ
今回は、CXデータの類型とその特徴をご紹介しました。収集した顧客データをどのように施策に活かせる形に加工するか、などのご相談については、弊社のカスタマーサクセスチームにぜひお声がけください。
出典
Customer experience management in the age of big data analytics: A strategic framework
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0148296320300345?via%3Dihub