Customer Data Platformと呼ばれる顧客データ基盤を導入する目的(入口)は企業によって様々ですが、プロジェクト推進者や決済者が何となくイメージしている最終的なゴール、別の言い方をすると「CDPに期待していること」はどの企業様もほとんど同じであることが分かります。
自社の顧客データを適切に活用すること
その結果、分析の精度が高まる、マーケティング効率が上がる、商品開発力が上がる、顧客のLTVが高まる、売上が伸びる等、様々な場面でCDP導入による「成果」を実感することです。Treasure Data CDPの導入企業様は現在約400社程度になりますが、ご契約企業様の担当窓口を担うチームに所属していると現場の方々から「生の声」を耳にする機会が沢山あります。
当然そこにはCDP導入前の課題が解決できた、業務上必須の仕組みになっている、といった喜ばしい意見もあれば、なかなか明確なOutputが見えてこない、使いこなせている気がしない、といった苦い意見もあり、両者は何が大きく異なるのか?最終的なゴールは近しいはずなのに一体どこで道が分かれてしまうのか?過去の事例を踏まえ一度整理してみることにしました。
<本記事の対象者>CDP導入直後の企業様、及びCDP活用に苦戦している認識の企業様
上記はTreasure Data CDPの全体イメージです。ざっくり2分割すると、データの入口である左側とデータの出口である右側に分けられ、CDPがそれぞれハブ(受け渡し)の役割を担っていることが分かりますね。CDPを1つの箱と考えた時に、右側部分(Output)を主目的としてプロジェクトがスタートしている場合でも、空箱から何かを取り出すことはできないので、必然的に左側部分(Input)の整理から着手し始めることになります。
冒頭でCDP導入の目的は様々と記載しましたが、活用までの順序(初期実装の手順)としては、どのような目的でも基本的に同じ流れです。基幹システムや各種CRMツール、店舗ビジネスを展開する企業様であればPOSやビーコンデータなど、まずは自社で保持する様々なソースからデジタルデータをかき集め、それぞれCDPに投入していくわけですが、プロジェクトが上手くいく/いかないの観点で言うと、既にこの時点で1つ目の大きな分岐点があると感じています。
- とりあえず色々なデータを入れてはみたけど、次に何をするかが決まっていない
- データを集約する段階に時間がかかり過ぎてしまっている(理由は色々あると思いますが)
この段階でCDPの活用が軌道に乗らないケースの大半は上記どちらかです。1はそもそも導入目的とロードマップが明確に設定されていなかった企業様に多く、何となくデータ活用とかDXと世間で騒がれているから導入してみた、というパターンも割と多いのではないでしょうか。
2は例えば自社にデータマネジメントスキルを持つ人材がいない、コンプライアンス等の理由で顧客データを入れる許可を得るのにまず時間がかかる、CDPプロジェクトの担当が専任組織ではなく別の仕事と兼務しており忙しくて動きが遅くなってしまう、などが思い当たります。
上記の図で言うと、赤枠の部分に1年近くかかってしまう状態です。確かに、CDPに集約したデータを分析やCRM施策へと活用するフェーズに進む手前で難航してしまうと「使いこなせていない=本当に必要なツールなのか?」という判定をされてしまうのも当然かと思います。なので、まずは最初の4ヶ月〜長くても8ヶ月を目安に、自社に散財しているデータの集約と統合(外部に連携して使える状態に加工)までは一気に終わらせてしまうこと(初動)が重要です。
一通りのデータはCDPに集約したが施策の実行段階で迷走するケース
このパターンが1番多いのではないかと感じていますが、いざデータを活用していくフェーズに入ったものの次に何をすれば良いか分からない(Outputのイメージが特に無い)という状況で根本原因を辿ってみると、そのほとんどが前述した「CDP導入決定時に、蓄積したデータを活用して実現したいOutputのイメージが具体的に無い」というケースです。
逆に言うと、こういう導線のメール配信がしたい、こういう顧客分析/可視化をしたい、オフラインの顧客をECサイトに移行させたいなど、やりたい施策(Outputイメージ)が具体的にあり、かつその数が多い企業様ほどCDPを軸にしたプロジェクトが何らか常に動き続けています。やってみた結果どうなるかは分からないけど「今現在やれていないこの施策を実行すれば、たぶんこうなるのではないか?」という仮設(アイディア)が出てくる限りは、溜まったデータを使って何をすれば良いか分からない、という足踏み状態は避けられるのではないでしょうか。
また、明確な目的が無いままに他社の事例(型)だけを真似してメール配信やレコメンドと連携しても、施策実行の先に得たい成果が見えていない「何となく連携」は、いざCDP導入の評価をする時に「本当にこれ必要なんだっけ?」という結果に終わってしまう可能性が高いです。人手が足りない、スキルが足りない、であれば社外の力を借りるという選択肢もありますが、そもそもの活用目的がふわっとしていると、現場担当はおろか予算を承認する立場の決済者の目には「うちでは使いこなせない無用の長物だね」と映ってしまうことは避けられません。
DXというお題目を掲げ高額な予算を捻出してまで導入する以上、決済権限者が求めている(期待している)のは結局、CDPを使ってどれだけの成果が出たのか?これに尽きると思います。予算を無尽蔵に使える組織であれば話は別ですが、そうでも無い限りどんなプロジェクトにも「投資対効果」という考えが経営陣の頭には常にあるものです。現場担当者がどんなにCDPの重要性を説いたとしても、そのプロジェクトにお金を出す決済者から見た時に明確な「成果」を示すことができなければ「期待していたものと違った」という結論になってしまいます。
では、この「成果」や「期待していること」とは、具体的にどんなものを指すのでしょうか?
データを連携して〜ができるようになった、だけでは評価が難しい
よく耳にするケースとして、CDPを導入した結果MAツールと連携できるようになりました、作成したセグメントで広告配信ができるようになりました、会員データを取得して分析できるようになりました、など。データが繋がったこと自体を「成果」と見なす場合があると思いますが、これが社内で評価されるのは1年目まででは?というのが事例を元に受けた印象です。
決済者からすると「できるようになった、その結果、何がどう変わったの?」という部分を明確に示してもらわないと、その投資に対して予算を出し続ける判断が難しくなっていきます。
- MAツールと連携した結果、個人に最適化したメール配信ができてリピート率が〜%向上した
- CDPから連携したセグメントで広告配信をした結果、無駄撃ちが減りCVRが〜%向上した
- 会員データを取得し顧客分析ができるようになった結果、ロイヤル層のLTVが〜%向上した
上記のように、CDP導入前と後で「できるようになったこと」があり、その結果として「何がどう改善したのか」までを、2年目以降ではプロジェクトの中で示していく必要があります。
とは言え、実際にデータを活用して具体的な数値改善をしようと試行錯誤してみても、しばらく思うような成果が出なかったり、施策実施の前と後でほとんど違いが見られなかったりと、顧客データ活用の「成果」を目に見えて実感できるようになるまでには、相当な時間がかかるケースが大半です。CDP導入1年目から大幅な改善!という企業様は本当に稀だと思います。
上記を前提に整理すると、CDPに期待していることは明確な「成果」の実感だが、そもそも導入後すぐに「成果」を実感できるようなプロジェクトではなく、どんな「成果」を目指すのかも目的次第。つまり、CDP導入の「成果」をどのように評価するか?をプロジェクト開始前、及びマイルストーン毎に決済者と現場担当者の間でしっかり統一しておく必要があるのです。
CDP導入の「成果」と、それに対する「評価」を事前に定義しておく
冒頭で記載したように「CDPに期待していること」はどの企業様もほとんど同じですが、これを明確な指標に落とし込まず「期待していること」のままプロジェクトを進めてしまうと、導入後6ヶ月や1年のタイミングで振り返った時に、どんな「成果」が出たのかを上から問われても答えられないという状況に陥ってしまいます。CDPの価値をどう解釈するかは自社の考え方次第のところ、本来事前に定義しておくべき「成果」と「評価」の指標が何も無いからです。
これは言い換えると、期待値コントロールでもあります。事前に指標が決まっていれば、その指標の範囲内で社内の評価をコントロールできますが、それが無ければ「期待していること」という抽象的な主観指標のままレビューされてしまうので、今はまだ実装段階であることや「成果」が出始めるのはこれからである旨を説いても、有用性を示すのが難しくなるのです。
まとめると、
- CDP導入の「成果」をどのように評価するか?事前に必ず自社内で定義しておく
- CDP活用の第一段階、データ集約と統合までは一気に進めてしまう(初動が重要)
- データを活用して何を実現(改善)したいか?Outputの仮設(アイディア)を出し続ける
上記3つのポイントを意識してプロジェクトを進めるだけでも、大きな違いがあると思います。
ただ、様々なお客様からの本音を伺う中で、1も2も3も「自社のメンバーだけでやるのは難しい」というケースは結構多いです。1と3はプロジェクト関係者全員の認識合わせやCDP活用の方向性を整理した上でロードマップを定めるPMスキルを持った人材が必要だし、2に関しては具体的な初期実装(データ集約/統合)を進める上でエンジニアスキルを持った人材が必要です。
自社内にスキルを持つ人材を育てるか、外部のリソースを活用するか
CDP導入後にプロジェクトが上手く進行するケースは基本的に上記のどちらかですが、前者に関しては弊社で有償のトレーニングプログラムをご用意しています。コースは2つあり、プロジェクトリーダーコースと、エンジニアコースです。今回の記事で触れたCDPの「成果」をどのように評価するか?事前定義や、プロジェクト全体の方向性/ロードマップを定めていくスキル領域で言うと、PLコースの内容が当てはまります。更にこの1年で対応を迫られる個人情報保護法改正に基づくプライバシー関連の内容も本コースには含まれていますので、いわゆるDXの旗振り役的なスキルを身につける上では最適です。
プロジェクトリーダーコースの全体像
カリキュラム内訳
対して、外部のリソースを活用するという場合においても弊社とパートナーアライアンスを結んでいる企業から様々なサポートを受けることが可能です。Treasure Data CDPを活用したシステムの提案や導入支援/コンサルティング/技術サポート等を得意とするパートナー企業様が複数いらっしゃいますので、CDPを軸にした企業のDX実現に向けてお客様企業内のデータ利活用全般のご支援が可能です。こちらはプロジェクトを最速で軌道に乗せるという点に特化しています。
CDP導入直後にはプロジェクト体制や会議体、マーケティング戦略やロードマップなど最初にある程度決めなければいけない事項が非常に沢山あり、自社内の様々なソースからCDPにデータを集約/統合、加工して使える状態に整えるまで、平均すると2ヶ月~3ヶ月程度かかります。
CDPの「成果」をどのように評価するかを事前に定義しておく必要があると前述しましたが、プロジェクト開始から1年が経つ頃に振り返ってみて「成果がよく分からない」となってしまう原因は、時間軸の設定にあるケースが多いです。要件定義フェーズ、企画検討フェーズ、データ集約/統合フェーズと順番に進めていきますが、理想は最初の3ヶ月でここまで一気に終わらせてしまうことです。ただ、実際にはこの段階で1年近くかかってしまうケースもあります。
しかし、決済者からすると投資に対する何らかの「成果」は示して欲しいもの。この時、初年度の「成果」として現場担当が出すのは数値ではなく「成果物」を見せるのが適しています。つまり、自社内に散財していた顧客データを集約/統合することで初めて分析/可視化ができるようになった自社顧客のカルテ、すなわちBIダッシュボードです。※Tableauなどと連携
実際に、CDP導入の初年度でダッシュボード構築に注力する企業様は多く、CRMチーム用、広告チーム用、経営層向けなど、複数のダッシュボードを作成/運用されています。企業内には様々な部門/役職がありますが、どんな立場であっても皆同じく人間なので、やはり目に見える形での「成果物」があるのと無いのでは、評価の仕方も大きく変わってくるのだと思います。
CDPプロジェクトの実装フローとご支援領域
まずは上記イメージ赤枠部分までの実装を導入後6ヶ月の目標とし、4の「データ利活用/施策への連携」を並行して準備。後半の6ヶ月でMAやレコメンドなどいくつかの施策をPoC的に回すことができれば、初年度の動きとしては大きな前進です。余裕があれば機械学習を用いた購買予測などにも着手し、2年目以降で本格的に事前定義した「成果」に向けた数値改善に臨む。
ざっくり、そのくらいのイメージでロードマップを設定しておくと、期待と成果のバランスが大きく崩れない認識です。リソースが豊富にあり、専任チームを用意して一気に進める場合は初年度で4まで実装できるケースも勿論ありますが、例としては赤枠までの企業様が多いです。導入直後の企業様や、活用に苦戦されている企業様は是非ご参考にして頂ければと思います。
本記事でご紹介させて頂いた有償トレーニングプログラムやCDP実装支援サービスについて、より詳細な情報が必要な場合には、弊社カスタマーサクセス担当までご連絡ください。CDPという顧客データ基盤は導入して終わりではなく、成果を実感するまでの時間軸が非常に長いプロダクトです。故に、事前準備や進め方に結果が大きく左右されてしまうものでもあります。本記事が貴社のCDP活用、DX推進の方向性を定める上での一助となれば幸いです。