カスタマーオンボーディングチームの小暮 和基です。
Treasure Data CDPにはBtoB業態のご契約企業様も多くいらっしゃいますが、その主な導入目的として営業活動高度化が挙げられます。本日は営業活動高度化におけるCDPの活用ポイント、およびCDPで構築すべきデータセットについて書かせていただこうと思います。本稿ではCDPのベーシックな利活用方法など初歩的な内容も踏まえながら解説していきたいと考えているため、若干冗長な部分がございます。ですので、先にお伝えしたいポイントを述べます。BtoB業態の企業のCDPによる営業活動高度化のポイントは以下の2点です。
- ”個人(担当者)”と”法人(アカウント)”という2つの視点が必要
- 2つの視点を具現化するため「担当者ごとの個人単位DB」と「アカウントごとの法人単位DB」の構築が必要
それでは、詳細について触れていきます。なお、以降の文章ではBtoB業態の企業を”B2B企業”、BtoC業態の企業を”B2C企業”と記載いたします。
B2CとB2Bの違い
「B2C企業におけるCDPの取り組みはイメージ出来るけれども、B2B企業では取り組みの具体的なイメージがわかない」と言うお客様が多くいらっしゃいます。その業態がB2CであってもB2Bであっても「顧客個別に適切なコミュニケーションを実行する」というCDPの利活用方針は同じなのですが、B2B企業でそれを実行することの難易度は高いと思われがちです。なぜB2Bだと難易度が高く感じるのか?それは検討/決裁プロセスが、B2CよりもB2Bの方が実際に複雑だからです。B2CとB2Bの検討/導入(購買)プロセスを比較すると、一般的に以下のような違いがあります。
さきほどの「B2B企業ではCDP取り組みの具体的なイメージがわかない」という方の話を聞くと、「複雑な検討/決裁プロセスの中でCustomer(=担当者)を追っているだけでは、企業としての商談検討ステージが現状どこなのか?次に打つべき手は何なのか?がわからない」というお考えが背景にあるようです。契約するかどうかは担当者個人ではなく結局のところ企業としての判断なので、担当者個別のデータ管理にどれほどの意味があるのか、と。
その考え方は私も一定の理解が出来るのですが、CDPに対するご認識については若干狭く捉えられているように感じます。その場合、私は以下のようにお話しさせて頂きます。
CDPは個人(担当者)単位でのデータマネジメントが出来ますが、企業全体を”法人”と捉えてステータスやActivetyをデータ管理することも出来ます。提案先企業を個人と法人の2軸で捉えることで、企業としての商談検討ステージや次にとるべき打ち手が見えてきます。
”個人”と”法人”、2つの視点を持つ意味
提案先企業を個人と法人の2軸で捉えることの意味について、デマンドジェネレーションの手法を採用している企業を例にとり解説を加えていきたいと思います。デマンドジェネレーションはB2B企業の営業プロセスを構造化&細分化し、各フェーズで効率的なアプローチを導入するためのフレームです。※解説の便宜上こちらのフレームを利用しますが、必ずしもデマンドジェネレーションを導入していなければCDPによる営業活動高度化が出来ないわけではありません。
デマンドジェネレーションの一般的フレームでは、営業活動を以下図のように細分化しています。各フェーズで最適なアプローチをとるためにそれぞれ異なるシステムが利用されているため、データのサイロ化が見て取れます。(製品/サービスマスタのデータがあったり、各フェーズに紐づく分析ツールがあったりするなど実際はより複雑です)
図1)一般的なデマンドジェネレーションと各ファネルで利用されるツール/システム
CDPでは、図1の下部にあるサイロ化されたツール/システムのデータ統合を図ります。これによりファネルやツール間を跨いだ顧客の属性や行動を把握することが可能となります。このデータ統合の際、担当者を指し示す単位(大抵は担当者IDを振ったりE-mailアドレスなど)で実施されますが、先述したようにB2Bはその検討/決裁プロセスの複雑さから担当者だけを追っていては見えないものがあります。
例えば「対象企業におけるOpportunityの評価」や「担当者の行動やコミュニケーションがOpportunityに与える価値の評価」、「次にとるべき打ち手の検討」など。これらはB2B企業の営業にとって非常に重要な項目であることは明らかで、これなしに適切なコミュニケーション設計や本質的な営業高度化は実現出来ないのです。
その解決策が、企業単位でデータマネジメントを実施することです。つまり、個人(担当者)単位でツール/システムのデータ統合を実施したように、企業をヒトと見做し「法人」という単位でデータ統合することで、法人単位で商談ステータスやOpportunity評価を(B2Cでは個人単位で購買ファネルのどこにいるかや購買見込を判定しているように)実施出来るようになるのです。
Treasure Data CDPでは、個人単位のデータとして”Attribute Table(属性データテーブル)”と”Behabior Table(行動データテーブル)”の2種に大別していますが、これを法人に置き換えると、Attribute Table=「会社情報」、Behabior Table=「その会社に属する個人から成された行動データの集積」となります。
図2)個人単位と法人単位のデータセット
個人単位および法人単位のデータは、それぞれ片方だけでは機能しません。個人単位だけではOpportunityの評価が出来ませんし、法人単位だけでは担当者個々人とのタッチポイントが不明瞭になってしまいます。またB2B企業では基本的に担当者個別に向けた施策を検討・実行しますので(ファネル中期以降は特に)、施策面においても法人単位のデータを揃えるだけでは機能しないのです。個人単位DBと法人単位DBを行き来しながら、分析やコミュニケーション設計を行っていくことが大事です。
最近では、MAを導入されている企業も非常に増えておりますが、基本的にMAは図の「個人単位DB」の領域で機能するものなので、法人単位DBに相当する部分が欠けてしまいます。MAによっては企業単位でデータ利活用する機能を持つツールもありますが、取得するデータ範囲・項目または粒度の問題から、ここで挙げた法人単位DBに求める役割をMA単独で果たすことは困難です。
B2B企業の営業高度化に向けたデータ設計
ここまで、B2B営業高度化には2つの視点が必要であると述べてきましたが、では全体としてどのようなデータ統合をしていくべきなのか、最後に補足的に触れさせて頂きます。企業個々の業態やビジネスモデルに依る部分が強くありますので、あくまでも一般的な例として捉えていただければと思います。
図3)CDP内で構築される統合データ
まず、リード情報取得前のAnonymous領域では、オウンドサイト訪問者のアクセスデータを中心に紐づくデータを主にcookieIDをベースに統合していきます。これが「1. 広告&アクセスデータ統合DB」。また、リード情報取得以降のNamed領域では、これまで解説したように「2.個人単位DB」と「3.法人単位DB」のデータ統合を実施頂きます。この際、個人単位DBではemailを統合時のKeyとし、また法人単位DBでは「法人ID」を新たに発番して統合Keyとする場合が多いです。
本稿では詳細には触れませんがこの状態までデータを整備することが出来れば、以下のようなステップでコミュニケーション施策に落とし込むことが出来ます。
ステップ | 利用DB | イメージ | |
1 | 顧客企業のセグメント分析・分類 | 法人 | 成約しやすい企業は(主に属性情報において)どのような特徴があるか? e.g.) 業種x従業員規模で成約率が異なるか? |
2 | データ上の成約条件把握、目標設定 | 法人/個人 | 主に行動情報において、成約に至りやすいデータ条件とはどのようなものか? e.g.) 各担当者に対し何回程度の商談が必要か? |
3 | 設定された目標を達成するための因子・有効ドライバの分析 | 法人/個人 | 決裁者向けにDemoをすることで成約率が異なる。Demo実施には決裁関与者2−3名の巻き込みが必要だ。 |
4 | コミュニケーションシナリオの策定、施策への落とし込み | 個人 | いつ、誰に、どんな内容で施策実行していくかの検討 |
2以降のステップは1で導出されたセグメントごとに実施されますし、複数製品やサービスを展開していればその単位でセグメント分類を行うべきケースも出てくるでしょう。また、4はMAのシナリオ設計のステップと非常によく似ています。またこれを特定企業ごとに行えばABM(Account Based Marketing)という手法となります。
言うは易しなのですが、実際にこの1-4のステップをこなすには相当の労力を要します。また成約/解約に至りやすい状態をデータでは表現出来ないケースなど、保有しているデータの中に必ずしも解が含まれている保証もありません。営業担当の方などと連携し、実際の提案現場の肌感や意見なども考慮しながら策定することをオススメします。
おわりに
冒頭にも記載しましたが本稿のポイントを改めて強調させて頂きます。
- ”個人(担当者)”と”法人(アカウント)”という2つの視点が必要
- 2つの視点を具現化するためのデータセット構築が必要(担当者ごとの個人DB、アカウントごとの法人DB)
B2Bにおける営業プロセスは複雑です。取り組めば取り組むほどその奥深さを突きつけられます。ですが取り組んだ分、効果として実感できる領域でもあると思います。昨今ではコロナ禍により営業プロセスのデジタル化が強制されている背景もあり、New-Normalに向けた”営業体制 with Digital”をいかに早く構築出来るかが競争優位性に直結します。
ぜひそのような取り組みをトレジャーデータとご一緒いただければと思います。